祖母が死んで一年たった。祖父は7年前に他界した。やはり春だった。
身近な人がなくなるのは春が多くて、かわいかった先輩も、優しかった先生も春だったから、
この季節は「わすれてませんよー!」と、どっちにあるのかわかんない天国に祈る。
祖母と祖父と同居していた伯父が昨年末に亡くなっていた。
それがわかったのは卒制の講評会のあの時で、1ヶ月経っていた。あの日は泣きながらるみに事実を告げて先に帰った。
自殺かどうかも何もわからない。タバコを口から離さなかった彼はおそらく肺がんかなにかで、体中に転移していたのだろう。
職もなかった彼は、私や兄に迷惑はかけまいと、体中痛がっていたのに医者にもかからずにひとりで逝ってしまった。
といっても推測なので本当のことは誰にもわからない、遺書はなかった。
弟の遺体を発見した母は深く落胆した。強がりに気づいてやれなかったと。
ひとつの家に住んでいた人たちが全員いなくなった。
となると、やることは一つでその家の中を掃除しなくてはならない。
だれもいない家というのは奇妙なもので、風景は見慣れているのにひたすら家が冷たいのだ。
まるで霊安室の遺体を触るように。
冷たい家の中に幼い頃の私の写真がかけてあるのも不思議な気持ちだった。
誰の為にそこに飾られているのかよくわからない顔をしているように見える。
引き出しの中も全部あけて丁寧に分別して行く。
手紙が出てきたり、入れっぱなしのお金が出てきたりしてほほうと思うこともあるが、
とにかくものすごい労力で、母は毎日のように自分が育った家を片付けに行っている。
おかげで毎日何かしら新しいものが我が家にやってくる。
今日は包丁を研ぐ機械がやってきたし、冷蔵庫はスポークンの新しいアトリエで使う。
捨てれば良いのに、センスの古い大きなソファーも母は結局うちに持ってきた。
伯父が買溜めていたインスタントコーヒーの山の一つは芸大においた。まだまだ死ぬほどある。
たばこの山は、私も父も兄も、伯父の銘柄は好みが合わず、フィリップモリスの5ミリは、若い頃からずっとそれを吸ってる高校の部活の指揮者の先生に譲った。母校に8カートンも持っていた。
あの家にあったものが、少しずつ少しずつ外に持ち出されていく。
これを買った本人のことを知らない人たちのところに。
伯父は 哲司 という。
いっつも頭ぼさぼさで、夏はタンクトップにジャージ、冬はそれにはんてんを着て、片方の手にコーヒーとタバコをいっしょにもちながら、「いらっしゃい。」という。彼はめったに二階から出てこない。哲司が上で何をしているかは誰も知らない。一度だけ兄と哲司の部屋に入ったことがあるが、とにかく配線コードがびっしりとはりめぐらされ、子どもの私には決して入ってはいけない電脳世界のようだった。若い頃勤めたこともあったようだが、やめて以来ずっと無職。ともだちもいない。まさに時代を先駆けたニート。
伯父のことを哲司哲司と裏で呼び捨てにしていたのはそういう突っ込みどころがありすぎるせいだが、なんとなく嫌いになれなかった。
ニートのくせになんだか偉そうで、特売目当てにちかくのスーパーを自転車ではしごする。マミーマートのことは、マミーと略す哲司。
包丁研ぐ機械なんて、砥石があれば十分なのに、いかにもニート、いや未婚の主夫、哲司らしいチョイスだ。そして使っていたマグカップは綾波レイ。
子どもながらに、哲司からもらうお年玉はなんとなく複雑だった。お前,これどこの金だよwwwって心の中で突っ込まずにはいられない。
さすがに、誰も来ない葬式の受付をやったときは、彼の人生はなんだったのか、なんて。無意味なのはわかっていても問いかけずにはいられなかった。
もちろん、彼の存在は少々デリケートなことでもあったので、母になんて聞けないが、でも私と兄、いとこたちの間ではネタになっている所を見ると,彼の冴えない人生は、意外とそうでもなかったんじゃないかと。
意外と、冴えっ冴えだったんじゃないかと。
笑いのネタになってるのは、彼が偏屈で頭が固くても、暗い人じゃなかったことに起因する。
いとこの純ちゃんが「テッチャン、かこいーよなー!」て言ってたけど、てゆうかお前も兄貴もいい加減結婚しろよって思うけど、
哲司は、自分の好きなことをして一生を過ごして誰にも迷惑かけずに死んで行ったのだ。親の面倒もしっかり見て。
これはもしかしてものすごいことではないか?
多分、何にために生きてるんだろう、ってくだらないこと思ってないところが、かっこいいんだとおもう。
なんとなく哲司を思い出してたらこんなに長文になってしまった。こんなつもりじゃなかったけど、
哲司は社会的にはニートだったかもしれないけど、なんか、そういうのに惑わされずに生きたっていったら、ちょっと持ち上げすぎか。
とてつもない孤独だっただろう。私にはとてもできない。
母は、「おばあちゃんが迷惑かけないようにって、はやめにおじさんを呼んだのかもね」って言ってたけど、
本当にそうかな。
祖母が死んでから、哲司はいつでもいーぜ。って顔してたばこふかしてたんだとおもうな。

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